ソーシャルアクションに関する考察(2009.7)
はじめに
基本的な問題意識として、‘社会’とは如何なる形態とシステムを持って構成されるのかを検討しなければ、社会福祉における社会活動・運動(以下、ソーシャルアクションという)を研究することはできないと考えてきた。この論点における社会福祉に対する認識は、第一に社会福祉は弱い立場の市民に対する‘公私に渡る支援の総体’であり、‘市民と社会との契約行為’であるという点である。第二として、自立生活を継続できるためのサービスの絶対量(支援の量と質としての公準の設定)は、国民の合意形成による‘社会的な価値規範’が根底に据えられているべきであるという点である。以下、この論点が本稿の根底にある。
視点を変えると、リオタールは、その著作「ポストモダンの条件」注1)において、‘大きな物語の終焉(①社会の全体をひとつの理論でとらえようとする。 ②人間の理性的な思考が理論を発展させる)’から‘小さな物語’への意味を問うたことで知られている。この特徴は、‘平静’より‘騒擾’を、問題解決ではなく問題提起を、普遍的な物語を生きるのではなくさまざまな問いを提出し、批判的な思考空間にむかって浮上することであった。ここにも、現代思想の特性としての‘批判的思考と抗争による開かれた世界’の構築が求められていることである。
特に、社会福祉の領域では、前記した二つの視点という意味からも、リオタールによる‘批判的思考と抗争による開かれた世界‘の指摘が不可避であると考える。その理由は社会的に弱い立場の市民への支援が社会福祉の基本であり、そこに社会福祉の固有な価値規範が問われるからである。しかも、絶えず社会福祉の絶対量は、ソーシャルアクション(Social Action)という行為によって充足されてきた歴史がある。この意味を含めて、本稿では、ソーシャルアクション(Social Action)という運動性と公私関係からも検討してみたい。
第一章 ソーシャルアクション
第一節 ソーシャルアクション概念の検討
第一項 ソーシャルアクション概念の系譜
ソーシャルアクション概念(以下、S.Aと訳す場合がある)は、英国でのパリッシュ(教区)の自治活動の歴史にみられる。具体的には、英国型のCOS運動(チャリティによる組織化活動)の流れとセツルメント活動などを源流である。その後、ベヴァレッジ報告に明記されたボランタリーアクションという用語の提起があり、英国では草の根運動的な側面を持ち、ソーシャルアクションとボランタリーアクションを意味しながら発展してきていると考える。
一方、米国では、英国のセツルメント活動などの影響によって、ソーシャル・リホーム(Social Reform)からソーシャル・アクション概念へと発達をしているのではないだろうか。例えば、1935年の全米社会事業会議では「ソーシャルアクション部会」が設置されている。その後、理論的な視点では、W.ニューステッター「インターグループワーク論」(地域内の各種組織、団体及び機関の代表者の討議の場を設定し、グループ間の関係調整によって各集団の協同を促進する援助技術)があり、M.ロス『コミュニティ・オーガニイゼーション』を経て、J.ロスマンによる三つのモデルでは、「地域開発モデル」「社会計画モデル」「ソーシャルアクションモデル」として説明されている。また、トロップマンによる「プランニング・モデルとソーシャルアクション・モデルとディベロップメント・モデル」という整理も著名である。
このような、米国の動向の背景には「社会的目標モデル」としての市民参加が問われ、指導者など社会活動志向が背景にあった。さらに、理論化が間接援助領域以外でも顕著にみられた。個別・集団援助の領域でも、「治療的モデル」やEトロップらの発達的アプローチやR.サリーの行動主義モデルなどとも関連して発展してきた。そこでは、「相互作用モデル」や方法論統合の立場から、個人と社会の有機的な相互援助システムの「媒介者」として援助者の役割が強調され、‘社会活動’の視点が強く求められてきたことがある。例えば、コノプカ(グループワーク研究者)は次のように指摘している注2)。『小集団が持つ治療的機能に着目し、収容施設入所者、非行少年、情緒障害児に対する治療教育的グループワークを開拓し、 グループワークの基本原理14項目を掲げた上で、個人の社会的対処能力の向上を第一に掲げ、そのような観点から集団援助技術を「成長指向グループ」と「社会活動(ソーシャルアクション)」の二つに大別し理論化している』ここでも社会活動(ソーシャルアクション)を組みいれられている。このように、ソーシャルアクション概念は、コミュニティオーガニゼーション研究とソーシャルアクション研究の領域だけでなく発展してきたことに米国での特徴がある。
基本的には、前述したようソーシャルアクションとオーガニゼーション概念はJ.ロスマンに代表される社会運動としての視点が原点にある。そこでは、単純なソーシャル・アクション(Social Action)としての社会福祉活動論だけではないソーシャル・リホーム(Social Reform)という社会改良・改革の市民的な運動が背景にあることは米国の特徴となっている。
第二項 我が国のソーシャルアクション
本邦ではソーシャルアクションの概念について注目され始めたのは、1960年代だと考えられる。そこで、当時の研究者を代表する一人として木田徹郎の提起をついて検討してみたい。
木田は、「われわれが生活している社会環境を構成している、社会制度と社会政策を創造し修正することを目指す社会福祉活動の一部門である」注3)と専門社会事業の一つの行動体系である専門の技術としてソーシャルアクションを説明する。具体的に、木田は「一般的な定義としては、現在の広い社会的環境の問題点に対処するため、現実の環境を構成している諸社会制度および諸政策を修正または創造することを目的とする大衆的な社会福祉の組織的活動である」(同著p312)、また、ケネス・プレイの定義として「ソーシャルアクションとは、専門社会事業家が努力している社会的適応、不適応などの問題の根底的な原因である各種の社会的条件および社会的政策に、直接影響を与えるための、組織的かつ意識的な活動である」(同著p.311)として引用している。さらに、木田によれば「ソーシャルアクション研究は何よりもまず、オーガニゼーション研究からはじめられるべきである」と記載している(同著p.311)。
なお、嶋田啓一郎は、「社会制度に対する科学的認識は、コミュニティオーガニゼーションの発達を促し、家族・近隣社会・学校・クラブ・職業集団などの制度的集団が、その成員の社会生活上の基本的欲求をより良く充足し得るために、その不備を補い、また進んで必要精度の確立を計るためのソーシャルアクションを喚び起こさなければならぬ」注4)としている。
さらに、高森敬久の指摘では、「社会資源の改善・創出に関する実践と研究が乏しい」ことの指摘がある。また、杉本敏夫や定藤丈弘なども「COが全体的調和を重視した穏健な戦術であることに対して、SAは権力構造に対決姿勢をとる方法である」注5)としていることも参考となる。
これらを参考として、本稿では、ソーシャルアクションとオーガニゼーション研究は、重層的な領域であることを確認した上でソーシャルアクションについての論考を進めたい。さらに、ソーシャルアクションは、福祉社会を構築するための‘社会的な運動体としての市民の装置’であると考えたい。そのためにも、ネットワーキング理論と公私関係論が精査されるべきであると考えている。
第二節 我が国のソーシャルアクション概念の整理
第一項ソーシャルアクションの位置
ア)ソーシャルアクションの位置
基本的に、社会福祉援助技術の体系では、ソーシャルワーク全体の個別援助だけで効果的に進められるものではなく、最大の社会資源である「地域社会」を基盤として社会福祉援助ではもっと総合的、複合的に援助の概念を創りあげる必要がある。その上で、ソーシャルアクションは、社会福祉援助技術において間接援助技術に分類される。社会活動法ともいわれ社会福祉に関する社会的活動のことであり、個人では改善されない問題の解決のため議会や行政機関に立法的、行政的に措置を講ずるように働きかけを行う活動、またはその過程のことである。しかも、繰り返すがコミュニティー・オーガニゼーションと一部共通点を持つ関連の深い方法だと考えられる。
イ) 社会活動法
基本的に、社会活動法は諸外国でいわれているソーシャルアクションの日本語訳であり、社会福祉を推進するための住民参加に基づいた活動形態である。社会福祉の諸課題やニーズに即して、住民や福祉関係者の組織化を行い、広く世論にアピールし、時には立法機関・行政機関に働きかけることを通して、既存の法律、制度の改正、社会福祉資源の開発、社会福祉運営管理の改善などを求めることであるとされてきた。したがって、社会活動法は広く国民の保健、福祉のニーズに応えるために、社会環境や社会システムを改革し、創造することを目指す活動である。そのため、社会活動法の過程は、①調査などによる課題の明確化、②課題に即した計画づくり、③住民への啓発、PR活動及び世論の喚起、④立法機関や行政などへの署名誓願、陳清活動、⑤行政による対応などのモニタリング、などの手順があると考えられてきた。
しかし、ソーシャルアクション概念には、積極的な改革・変革のアプローチとしての意味を包含してきた。したがって、穏健主義的な地域改良活動や住民参加を超えて、既得権益や権力と民主的な対峙する姿勢が不可欠であるといえよう。
ウ) ソーシャルアクションの範囲
社会福祉の領域以外では、無目的な公共事業や河川の改修や道路整備の問題では、当該地域での利潤追求が中心となる利害構造などに対しても、その問題の軽減や解決のためには、公的機関に対して強力な市民的な運動としてのソーシャルアクションが求められる。
地域社会にあって問題解決を図るためには、公的な既存資源の動員や住民間の自主的努力だけでは、解決が困難であることが多い。それは、必要な社会資源が明らかに不足し、既存の法・制度やサービスの内容・水準などがそれを利用する地域住民の現実のニードに合致しないことなどによって生じているからである。これらの問題解決のためには、既存の諸資源の改廃、制度的水準の改善、新たな諸資源の創設、あるいはそれらに伴って、時には法律・条例そのものの改廃や制度などを促す必要が生じてくる。したがって、そのためには、社会資源の担当および統制機関(多くは行政など)に対する組織的・市民的な行動(以下SA)の展開が必要となる。
今日の地域福祉の動向では、SAによる対応の必要性が基本的にある。その理由は、問題解決の質を高めるためには、地域社会を巻き込み「その人らしさ」を基盤として自立生活を希求されるようになったからである。基本的には、経済不況や、効率性重視の地域政策の展開による相対的貧困化や、地域生活環境の破壊の深まり、さらに人口の老齢化現象や核家族化の進行などによって、在宅要援護者家族の生活苦や介護問題が深刻化しており、社会的介護サービスや環境条件の整備の施策は社会福祉基礎構造改革の名のもとに崩壊している。さらに、所得保障、住宅・保健サービスなども未整備な状況である。地方分権と規制改革によって、公的福祉の効率化や、住民間の相互扶助の強調による行政責任の縮小化が進んでいる。公的責任の確保・拡充を迫るSAの展開が求められている。
エ) ソーシャルアクションの目的とコミュニティワークとの関係
海声社『コミュニティワーク』において、次のように記載がある。参考になるので長くなるが引用する。「SAが目指す目的やねらいを全体的に明らかにする必要がある。1960年代のアメリカで台頭した種々のSAを整理したロスマンの見解を手がかりに分析すると、その目的は大きく三つに分けられる。
第1は、住民のニードに対応しうるだけのより高い資源やサービスの入手を可能にするような社会資源・サービスの給付水準の向上、制限的なサービス利用条件の緩和、環境整備基準の一層の高度化といった既存の制度的水準を高めたり、新たな社会資源・サービスを開発するといった直接的な目標に属する事柄である。
第2は、社会資源やサービスを配分し、統制・管理している機構、主に行政機構の既存の意志決定メカニズムに何らかの修正・変更を伴わせることである。すなわち、制度的水準の改善などは当然既存の政策の修正を伴うことから、政策を規定する個々の立法(法律や条例など)の改廃や制定を促す場合もある。また時には、住民層の連帯が広範で強固であり、一方、既存の意思決定の壁が厚い場合、意思決定構造自体の改変(例えば、意思決定構造への住民参加ルートの確立、自治体の長や管理者のリコールなど)を目指すこともSAの目的とされる。
第3は、SAに参加する住民や福祉当事者の自主的なパワーの形成や態度変容にかかわる目標である。SAの一定の成功や展開は、住民層の地域社会の意思決定過程への参加を定期的に促進するといった住民パワーの確立と増大につながるし、自立的な運動が継続されれば、参加主体の態度変容も起こりうる。
例えば、ごく平凡な市民・住民が、社会的な問題認識を広げたり、高度な技術的知識を学習したり、社会的イデオロギーを体得すること、あるいは権利意識、地域社会の主権者として意識を確立し、深めるなどの効果も期待されるのである(ロスマン、1979)。そして、このようなねらいを持つSAは、従来のコミュニティワークとの関係においても、重要なその機能の一つであると捉えられてきた。すなわち、以上のようなSAの機能がなければ、コミュニティワークは一方的に既存の制度、地域環境、地域権力構造への適応や、地域的な相互扶助のみを住民に押しつける結果に陥りやすい。その意味では、コミュニティワークが地域社会の公的な福祉水準の向上、および草の根民主主義の浸透にどの程度貢献しうるかは、SA機能の導入の度合いにかかっていると言えよう。また、SAはコミュニティワークの過程にのみ吸収される概念ではなく、独自の性格を持った方法でもある。例えば、比較的長期間にわたって地域住民の協働体制を確立することを目指すコミュニティワークは、それ故、一定の地域社会の枠内での組織化の方法としての限界を持つのに対して、SAには、かかげられた目標に賛同する人々を地域の枠を超えて組織していくといった機能がある』としていることが参考となる。
第二章 ソーシャルアクションと社会正義
第一節 ソーシャルアクションと社会正義
社会正義の概念についての考察は別稿とするが、ここでは社会の成り立ちにおいて公正公平であり、市民権が確立されていて、弱い立場の市民の権利を積極的に保持できることという程度の理解から検討する。
基本的に、相談援助の専門職として、社会福祉政策や関連施策について行政や社会への市民的な働きかけが重要である。それでは、狭義のソーシャルアクションは、利用者の依頼に基づいて、利用者との相談業務を通じながら信頼関係を作り上げ、利用者が自ら有する能力を最大限活かし,自ら望む環境で,人生において尊厳を持って過ごすことができるような生活が作られるよう援助していく。そうした援助が可能になるような、高度な専門的技量が本来的には求められる。
一方、広義のソーシャルアクションは、ソーシャルアクションは、‘社会正義’を背景とする理念を明確として、社会福祉行政への働きかけを意味しており、その対象は‘政府など’の行財政全体のシステムと執行権限に対してである。一方では、地域住民の‘福祉意識’を醸成させるために専門職の視点から働きかけることも意味している。これらを整理するとすれば、「社会正義による社会問題に対する社会的、政策的解決を促す技術の一つである。推進の方法は、世論の喚起や行政機関への組織的・市民的な行動の展開によって、問題を持っている要支援者のニードに合った資源の改廃や創設を行い、その制度的な改革や改善を促し、さらに、権利としての福祉水準の拡充を図ることであると言えよう。
特に、社会資源の不足や開発のためには、ソーシャルワーカーとして使命感を持って対応する必要がある。また、これらの前提には、すべての社会問題に対して対応をし、社会福祉の視点から社会的な改善を図る技術である。例え、その対象が「平和」や「地域紛争」や「環境」や「教育」や「多くの社会事象」に対しても社会正義を基本として取り組むこととなる。もちろん事象自体へは、公的機関や専門職が対応することとあわせて、そのチームの一員として組織化・社会啓発などの専門的な立場から参画する必要性である。したがって、ソーシャルワーカーは、たえず、相談援助の専門職として、社会福祉政策や関連する各種施策について、必要な改善の要請を行政や社会へ働きかけいくことに注意を喚起しなければならない。その重要性を社会福祉援助の間接援助技術のひとつが社会活動法(ソーシャルアクション)への住民の関心と参加も図るべき使命があるといえよう。
第二節 ソーシャルアクションの技術
次に、SAの技術について海声社『コミュニティワーク』において次のように記載されている。ここでも長くなるが引用したい。「公的責任に属する社会資源の開発要求に関しては、それに対する住民の共通意志を署名運動などによって集約し、行政機関および議会に陳情・請願を行うのが一般的なやり方である。しかし、要求する課題の性質によっては多額の公的経費および条例の改廃などが必要とされるので、通り一遍の運動ではその目標の達成が困難な場合が多い。そこで次のような方法を適宜駆使していく必要もある。
(1)議会への働きかけ:地域社会の意志決定の最高議決機関は議会であるから、提出した陳情・請願を実現させるにはやはり議会に働きかけることがポイントの一つとなる。議会を傍聴したり、議会の委員会で趣旨説明を行ったり、政党や議員への直接的働きかけによる圧力や、あるいは選挙を利用して公開質問状への回答や公約を迫るなどによって議会を動かすことが、目標実現の重要なステップとなることは確かである。ただし、リーダーの独断先行による特定の議員や政党への働きかけ行動は、逆に住民の主体的な運動を破壊しかねないリスクを伴うことにも留意しなければならない。
(2)行政への働きかけ:生活行政施策の専門職化の進行や現代行政の裁量権限の問題を考える時、そしてSAの目標は行政施策として実現させたい事柄が多いことから、行政に働きかけること、またその際には行政当局に影響を持つあらゆる手段を活用することも大切である。
まず、集約された運動要求をとくに行政の予算編成期に提出し、当局と直接懇談し、交渉することが基本であるが、既存の行政参加制度をできるかぎり活用し、必要ならば条例の制定や改廃を求める直接請求権を行使すること、あるいは行政の持つ関連情報を公開したり、住民集会の場に行政関係者や地区出身の全議員の参加を求めて、運動への協力を求める方法も効果的である。
その他、前述のように議会に働きかけ、議会をとおして行政に圧力を加えたり、時には行政首長への直訴行ったり、さらには裁判所への提訴や傍聴など、司法機関への働きかけを行う方法もある。当然ながら、粘り強い運動を行うことが、行政の譲歩を引き出すためにも肝要となる。
(3)団結の強化と世論喚起の方法:議会や行政に譲歩を迫り、議会に住民の意思を反映させて、社会資源の拡充や創設を図るには、住民相互の団結が強固であるだけでなく、問題に対する世論を喚起し、世論の支持を背景に運動を展開することが特に重要となる。住民の団結を強化するには、SAの運営の民主化を図るとともに、住民集会や大会を開催して、共通の要求や目標を意見交換の中で確認し合うことにより、連帯感や団結を深めるなどの方法が用いられねばならない。
世論を巻き込むには、街頭での署名運動を行ったり、趣意書、パンフレット、機関紙などを配布したり、マスコミに働きかけたり、あるいはパネル展によるアピールといった街頭宣伝などの方法を行う必要もある。その場合、公的な施策や努力の不十分さが住民の地域生活を圧迫している状況や、その問題が多くの市民に共通性をもつものであることなどを、できるだけ多数の人々が容易に理解しうるような伝達方法を用いる必要がある。人権を具体的に侵害されている事実をアピールすることなどは、その問題に対する世論を喚起するのに効果的である。
(4)運動の連帯の拡大と直接行動の戦術:SAの標的が巨大であればあるほど、運動に対する直接的な連帯の輪をできるかぎり拡大することも必要となる。例えば、共通の問題をかかえる他の地域に運動の輪を広げたり、共通の課題を持つ他の運動との連帯を図ることである。そのためには、組織相互の排他主義を克服し、住民みんなの生存権、生活権を守るというコミュニティワークの目標理念のもとに団結し、連帯を促進することが大切となる」という指摘がある。
このようなソーシャルアクションの整理は、米国の概念の影響が多くみられるが、現実と理論的な整理の間の乖離が懸念される。ある意味では、我が国ではソーシャルアクションに対する積極的な理論づけがされていないことを危惧している。
第三章 ソーシャルアクションと社会福祉協議会活動論の基盤
第一節 民間活動と公私論
我が国では、公私の役割は、民間社会福祉と公的社会福祉事業との相対論の中で民間社会福祉事業(活動)が問われてきた。民間とは何かという議論は公私社会福祉事業の前世紀後半から、関係論の中で数多く論じられてきた。公私関係の主要論は以下の通りであるが、これらについては散々議論がされ尽くされており、今日ではM.P.ホールの「批判的協力関係論」がテーゼとなっているという紹介にとどめておく。以下に英国を中心とした公私関係論を整理しておく。
民営社会福祉事業万能論 Josephine Shaw Lowell 1883
平行棒理論(Parallel Bars theory) Benjamin Kirkman Gray
繰出梯子理論(Extention Ladder theory) Sidney Webb 1914
多数=公営・少数=民営論
(Majority-public,Minority-private)Linton B, Swift 1934
公営社会福祉万能論 Helen Clark 1947
批判的協力関係論 M,Penelope Hall 1952
岡村重夫によれば、「繰出梯子」や「多数=公営・少数=民営」理論までの公私関係論は、公私それぞれの独立した活動領域を見出そうとすることに専心し、却って両者共通の性格を見落しており、共有するものと共有しないものを互いに認識し合うことが必要であるとし、「批判的協力関係論」を支持している。
本来、民間社会福祉事業である社会福祉法人についても、たとえば「社会の要求に速やかに対応してゆく」という事業の柔軟性が民営社会福祉事業の特徴であるとすれば、民営社会福祉事業に対する法規制はそれを制限するものではなく、むしろ民間性を助長する方向で作用すべきものでなければならないはずである。、具体的には、我が国の民間社会福祉施設の公費依存率は98%といわれる。これでは「下請」という名の「協力」は存在し得るが、「批判的」性格は骨抜きとなってしまう。「批判的協力関係」とは、批判が担保されて行われる協働でなければならない。したがって、寄付文化とい市民側の浄財を確保する道が求められ、そこでは対等な契約関係と自由な‘民間社会福祉財源確保’が必要である。このような適切な公私関係の構築のためには、ソーシャルアクションが不可欠であり続けるといえる。
第二節 ネットワーキング理論
ネットワーキング理論は、概ね、積極的に他者と「交流」「つなぎ」「触れ合い」などの関係性を積極的に形成することをネットワーキングと考えることができる。例えば、正村公宏は、ネットワーキングとは、「ある目標あるいは価値を共有している人々のあいだで、既存の組織への所属とか、居住する地域とかの差異や制約をはるかに越えて、人間的な連繋をつくりあげていく活動」としている。
また、高田昭彦は、「縦型の階層構造「ヒエラルフィー」から、横型連結型「ネットワーク」への転換がある。 社会的に問題となるネットワークには、①情報・通信ネットワーク ②超産業社会へのネットワーク ③生活者のネットワーク(ネットワーキング)」と指摘する注6)。
さらに、金子郁容(金子郁容『ボランティア』岩波新書)は次のようにネットワーキングの基本を整理している。
① 動的情報を発生させるプロセス
② 相互作用の中での意味形成のプロセス
③ 自発性を基礎にする関係形成のプロセス
④ 関係変化のプロセス
視点を変えて、社会的ネットワークについては「家族、友人、近隣、親族などの特定の社会制度にかかわる人びとが有機的に結びついた社会環境である」(E.Bott)という指摘もある。この場合、社会的な相互の組み合わせであり、ネット(網の目)状の複数の人間関係をさし示すと考えられる。次のようにも整理できる。第一として、次の全体との関係のネットワークとして、ア)個人のネットワーク、イ)全体のネットワーク、ウ)部分のネットワークがあるといえる。さらに、①問題と問題のネットワーク、②問題と事業のネットワーク、③事業と事業のネットワーク、④人と人のネットワーク、⑤問題と人と事業のネットワークという整理は大橋謙策の指摘である。
「社会的ネットワーク」「個人のネットワーク」が豊かに形成される時期は、生産年齢の時期である。その間になんらかの社会的ハンデキャップが発生すると、ネットワークが縮小し機能しなくなることがあり、個人によってサイズが変化する。また、老齢期には「社会的ネットワーク」「個人のネットワーク」は縮小し、消滅していくこととなる。したがって、社会福祉の機能の一つは、「個人的に縮小したネットワークしかない要援護者」に対して社会的に支援し、ネットワークを拡大し再生産させることである。当事者にかわって、新たな「社会的ネットワーク」「個人のネットワーク」を形成できるよう支援することがソーシャルワークの業務である。
社会福祉の分野で使用されているネットワーク概念に必要なこととして、新しい社会福祉観を共通の基盤とすることが求められ、「横から縦への発想」に基づく、市民相互の組織のフレキシビリティーが求められよう。ここにも、ソーシャルアクションとの関連がある。
個人は、積極的に他者と「交流」「つなぎ」「触れ合い」などの関係性を積極的に形成しなければ、集団の中で孤立してしまうこととなる。個人的・社会的ネットワークは、親族のネットワークから、地縁のネットワーク、職業のネットワークなどを基礎としつつ形成される。男性のネットワーク、女性のネットワークは、当然その形状が異なるし、とりわけ、男性の過度な職縁ネットワークへの依存が問題となっている。退職後の男性の孤立観も特異現象であるのかもしれない。ここにも生活上の社会関係の厚みとして、ネットワーク関係を豊かなモノとするためには、より積極的で開拓的であり、革新的なネットワーキング型活動が必要であろう。さらに、公的な責任を裏付けていく必要性がある。そこでは公私関係論が基本である。さらに、現行の既得権益や官僚的組織論など疎外要素も多く、ここでもソーシャルアクションの必要性でもある。
第三節 社会福祉協議会活動論の基盤
このように検討してくると、日々の生活には、社会関係を地域社会が基盤として整えて、個人・家族・近隣・地域社会の関係性を豊かなモノとすることが第一であり、そこに公的責任による保健医療福祉のシステムが構築される必要がある。しかし、「公」と「民」の関係において、官僚制の問題など拮抗する部分がある。例えば、高澤武司による指摘である「社会福祉の管理構造」の課題もある。さらに、住民主体と住民参加を図り、民主主義と社会正義の確立にはソーシャルアクションはソーシャルワークに求められる原点であるといえよう。
しかも、社会福祉協議会は、英国のハムステット地区に設立されてから、その活動基本には「セツルメント思想」と「ボランタリーアクション」などに代表される草の根的な地域活動を基本としていることが原則である。この民主的な公私関係の構築は、不断の市民活動による産物であるといえる。我が国の社協活動でも、山形会議で住民主体原則が確認されている。さらに、コミュニティ・インボルブメント(地域を巻き込むこと)による住民参画を図り、ネットワーキング型活動は、社会福祉協議会活動の根底に求められているはずである。したがって、ソーシャルアクション型社協活動こそ使命であるといえる。かって、全社協でも活動型社協に意味づけていた時期もあった。しかし、現在のような介護保険型事業社協へと変貌していることには危機を感じている。おそらく、社協活動にとって、ソーシャルアクションを組み入れるか否かでの考え方の分岐点であるといえる。
残された課題
嶋田啓一郎は社会福祉の課題について、「社会関係における主体的及び客観的諸条件の相互作用より生起する諸々の社会的不充足、あるいは不調整現象への対応と考える」(嶋田「社会福祉体系論」P112)としている。この指摘にある‘社会関係での主体的及び客観的諸条件の相互作用で生起する社会的不充足や不調整現象への対応’は、ソーシャルアクションが不可欠であることがわかる。さらに、嶋田は、「私は、社会福祉を次の如く定義する。社会福祉とは、その置かれたる一定の社会体制のもとで、社会生活上の基本的欲求をめぐって、社会関係における人間の主体的及び客観的諸条件の相互作用により生起する諸々の社会的不充足、あるいは不調整現象に対応して、個別的または集団的に、その充足・再調整、さらには予防的処置を通して、諸個人または集団の社会的機能を強化し、社会的に正常な生活標準を実現することによって、全人格的人間の統一人格を確保しようとする公的並びに民間的活動の総体を意味する(嶋田「社会福祉体系論」ミネルヴアP94)」とする。嶋田の定義での、‘全人格的人間の統一人格を確保しようとする公的並びに民間的活動の総体’という文脈でもソーシャルアクションやコミュニティオーガニゼーションが求められている。
本稿では、ソーシャルアクションについて、社会福祉の理論の先駆者である木田徹郎と嶋田啓一郎の枠組み注7)を検証しながら、海声社のコミュニティワークを参考として、ソーシャルアクションについて概観してみた。これらの根底には、‘市民と社会との契約行為’が第一にあること。第二として、社会福祉に対する‘社会的な価値規範’の確立のためにもソーシャルアクションは重要であるといえよう。最後に、社会福祉協議会とソーシャルアクションについての考察は今後の課題としたい。
注1)リオタール(Jean-François Lyotard, 1924-1998)は現象学の研究からスタートした哲学者であり,『ポスト・モダンの条件』(1979年)はその後の社会学のポストモダン社会論にも大きな影響をあたえた。リオタールによると,情報化が進展した今日の社会では,生産についての研究よりも,言語,知,情報についての研究が盛んになり,社会に大きな影響をおよぼすようになった。また,情報化とグローバル化の進展は,国家,国民,政党,職業など,社会生活の統合に寄与していた伝統的な社会制度を弱体化した。そんななかで,現在の思想状況は,「大きな物語」の終焉によって特徴づけられると,リオタールはいう。 「大きな物語」という言葉を理解するためには次のような想定に立って,世界を説明する「物語」であった。しかし,今日では,こういう大理論は不信の目でみられている。
①社会の全体をひとつの理論でとらえようとする。
②人間の理性的な思考が理論を発展させる
注2)コノプカによれば「ソーシャルワークの1つの方法であり、意図的なグループ経験を通して、個人の社会的に機能する力を高め、また、個人、集団、地域社会の諸問題により効果的に対処し得るよう人々を援助するものである」。さらに、「成長志向グループ」、「社会活動志向グループ」という整理が著名である。
注3)木田徹郎(1964)「社会福祉概論」新日本法規出版.
注4)嶋田啓一郎「社会福祉体系論」ミネルヴァ書房,27.
注5)高森敬久(1993)「ソーシャルワーク実践の方法としてのソーシャルアクション」相川書房,ソーシャルワーク研究,86.
注6)高田昭彦「ネットワーキング」『キーワード社会学』,P53.
注7)嶋田啓一郎編著(1980)社会福祉の思想と理論「社会福祉思想と科学的方法論」ミネルヴァ書房,47.社会福祉の新しいイメージは次の三点としている。
①全人的人間理解をクライエント理解の正面に据えたこと。
②一般システム理論を導入し力動的な統合理論を中核に方法論的統合化を推進するに至ったこと。
③コミュニテイ理論を拠点としてコミュニテイワークが活発化したこと。