地域福祉計画に関する基礎的研究

問題の所在
 社会保障の体系と社会福祉サービスの体系が、平成2年の社会福祉関係八法の改正を経て大きく変容している。このサービスの体系の変容は「地域福祉」を基軸にして医療・保健・福祉の領域でのシステムを再編制しているといえる。特に、平成9年12月の介護保険法の成立によって、高齢者の医療・保健・福祉の領域が社会保険方式として新たな局面を迎えている。さらに、中央社会福祉審議会では「社会福祉基礎構造改革」(社会福祉事業の在り方に関する検討委員会)が主要な論点として公表している。平成10年6月には、中央社会福祉審議会に設置された社会福祉構造改革分化会において「社会福祉基礎構造改革について(中間のまとめ)」の答申として取りまとめている。この動向に基づき戦後50年の社会福祉の基盤の抜本的な改革を目指して、平成11年の3月の通常国会では、この中間の答申を盛り込んだ大規模な法改正が予定されている。 この動向を背景とした本稿の第1の論点は、社会福祉の計画の領域での「地域福祉計画」の位置の検討にある。たしかに、平成2年の八法改正によって法律的には、社会福祉サービスは普遍化し、社会福祉サービスの公的実施体制の機関委任事務 が団体委任事務化したことで大きく変化した。特に、改正された社会福祉事業法第3条に「計画的な実施」という文言が入ったことによって、市区町村自治体での在宅保健福祉サービスが総合的・計画的な実施が期待されることとなった。また、高齢者の領域では老人保健福祉計画によって先行し、介護保険制度によって公的整備が進みつつある。今後、障害者の領域などとあわせて、それらを総合的な行政福祉計画として収斂することへの期待が生まれた。そのようななかで、社会福祉事業法の予定される改定の内容では、総合的な行政福祉計画を「地域福祉計画」として位置づけ法律に明記しようとしてる。ここでの地域福祉計画の意味を問う必要がある。 本稿の第二の論点は、「地域福祉計画」に基本的に期待されるあり方と、公的責任を明確にすべき行政計画の関係の検討である。これまで、地域福祉計画は、社会福祉協議会による住民主体の活動の活性化のために必要性がうたわれてきた(その実行性・効果性については論議がある)。なお、行政計画においては、各法律(老人福祉法、障害者基本法など)によって個別な福祉計画が位置づけられるようになってきた。しかし、この個別法(老人福祉 法、老人保健法、障害者基本法など)に依拠した福祉計画であれば、この個別計画を各自治体ごとに「総合的な福祉計画」として、地方自治法での「総合計画」にすり合わせ計画化すればいいことである。このように、地域福祉計画が行政計画としての単なる「総合的福祉計画」であっていいかという問題である。 このような論点を検討し、「地域福祉計画」が重層的な構造を持っているとの仮説を提起したい。それは以下のような構造として公共私の関係の止揚関係として検証したい。 それは、第1として、行政責任を明確にする「総合的な行政福祉計画としての地域福祉計画」である。第2としては、「公私協働の促進の地域福祉計画」の基本的な位置の問題である。次に、「自治を志向した地域福祉計画」という住民の活動計画であり、当事者の活動計画の在り方の問題である。この地域福祉計画の三層の構造について考察をする。そのために、計画論という視点に立ち返って検討したい。

Ⅰ 社会福祉計画の位置

 (1) 計画の基本的視点 
 20世紀初頭に「社会計画論」の先駆者として大きな業績を残したマンハイム(K.Mannheim)は、『社会計画がめざすべき基本方針は、産業化にともなって現出している「形式的合理性」を「実質的合理性」に転じることであり、そのためには、無定形なエネルギー状態にとどまっている大衆の潜在的創造力を合理的な水準において活性化させることが不可欠であるから、社会計画はたんに制度の次元にとどまらず、人間主体やパーソナリテイの次元にまで拡大されなければならない。したがって社会計画は教育の問題をその基礎に含むと同時に、計画そのものがどこまでも「自由のための計画」として考案されなければならない。』と指摘している(注1)。このことは社会計画は民主主義の発展と相補的な立場にあり、民主主義の拡大をもたらすものとしていることがわかる。このように、マンハイムがいう「民主主義の実現のための手段としての計画」の視点は、21世紀のパラダイム転換を模索した「福祉社会」の構築のためには必要不可欠となっている。 社会福祉の領域の計画は、基本的には社会計画の1分野である。この社会計画について、高田真治は、『社会計画とは、社会的な計画のことをさ すが、この場合の社会の意味は、個人、もの、経済、国家といった社会の反対概念との対比のなかで考えることができる。①計画の対象を総合的なものとして捉らえること、②社会政策の計画化を含んでいること、③計画の策定において参加を重視していること、などの契機をふくんでいる』としている。さらに、高田は、行政の計画について『ある理念・構想に基づいて策定された目標の達成のために計画は策定されるが、これには多くの人的資源、財源が投入される。そしてその実施には、それ以上の諸資源が必要になるであろう。目標に照して結果は評価され、フィードバックされる。行政計画においては、計画は行政を中心に住民参加によって策定され、計画は行政の資源調達によって実現されなければならない。計画策定と実施に必要・十分な資源の投入と制御の保障なしに、行政の計画的推進のみを強調するのは自家撞着である』(注2)という指摘がある。また、行政計画については次のアピール(計画行政学会のアピール)が著名である。『計画は、行政によって実現される。そして社会は無数の計画と行政によって動いている。しかし、残念なことには、計画と行政との関連には十分に満足すべ き状態にはない計画の源泉には思想と科学があり、行政の基盤には組織と技術があって、それらが相互にからみあっているからである。』とされる。このように、社会計画の役割は、行政計画としての側面が濃厚であり、社会政策との連携が重要である。社会政策の計画的推進の中心的な課題が「社会福祉問題」として顕在化していることがいえる。

 (2) 社会福祉計画の動向 
 平成2年(1990)年社会福祉関係8法の改正によって、社会福祉事業法第3条には「社会福祉事業その他の社会福祉を目的とする事業の広範かつ計画的な実施につとめなければならない」と明記された。あわせて、老人福祉法では「老人福祉計画」、老人保健法では「老人保健計画」の策定を明記し、地方老人保健福祉計画として一体的に策定を都道府県ならびに市町村での義務化がされた。次いで、平成5年(1993)年には、心身障害者基本法が改定され「障害者基本法」が成立した。ここでは、障害者計画として地方自治体での策定義務化はされてはいないものの策定の努力を法的に明記している。最近では、平成9年に、介護保険法が成立し、平成12年の開始に向けて「介護保険事業計画」が策定されようとしている。このように平成2年に始る、一連の社会福祉改革の推進を経て、現在、中央社会福祉審議会での「社会福祉基礎構造改革」の動向を受け厚生省の内部で論議されている。ここでは、社会福祉事業法が改定が予定され、「地域福祉計画」の用語の法律への明記と策定義務が盛り込まれる可能性がある。そのような中で、行政計画での社会福祉計画の種類は次のように整理できる。 
 ① 行政計画としての「社会福祉計画」  
  ア 行政計画としての「老人保健福祉計画」   (新ゴールドプラン)  
  イ 行政計画としての「公的介護保険事業計画」   
  ウ 行政計画としての「障害者計画」        (障害者プラン)  
  エ 行政計画としての「児童福祉計画」      (エンゼルプラン)  
  オ 行政計画としての「総合的な福祉計画(地域福祉計画)」 
 ② 行政計画としての「隣接計画」  
  ア 行政計画としての「地域保健医療計画」  
  イ 行政計画としての「市町村母子保健計画」  
  ウ 行政計画としての「過疎地域活性化計画」  
  エ 行政計画としての「広域市町村計画」  
  オ その他の行政計画 
 一方では、社会福祉協議会にあっては、1962年の「社会福祉協議会基本要項」において「地域福祉計画」を地域組織化活動の一環として位置づけ、社会福祉協議会発展計画・強化計画として取組まれてきた。また、平成5年(1993)年には、新・社会福祉協議会基本要項において、「地域福祉活動計画」の策定が提唱された。そこでは、民間計画としての「活動計画」としての特徴を持ち、「ふれあいネットワークプラン21」をビジョンとして、住民から信頼される事業型の社会福祉協議会の計画として位置づけられている。しかし、公的介護保険事業など下請けする事業型社会福祉協議会のあり方には疑問の声もあがっている。社会福祉協議会に求められる地域福祉の推進機関としての意味や住民の日常的な生活問題を解決するために果たすべき役割は、行政の下請機関としてだけではない。その視点からも、「地域福祉計画」に「活動」をいれたことの意味を再吟味する必要があろう。

 (3) 社会福祉計画の内容と地域福祉計画の位置
 前記の検討から、社会福祉計画および地域福祉計画に求められる内容として下記の事項が考えられる。 
  ① 個々のサービス間の調整及びケアプラン(個別援助計画としての社会福祉計画) 
  ② サービスのための資源の開発と調達(社会資源の調達計画としての社会福祉計画) 
  ③ 施策担当行政の組織計画化(行政計画としての社会福祉計画) 
  ④ 他の福祉関連分野である住宅、環境、教育、雇用、保健医療の関連性の確保(社会計画のなかの社会福祉の隣接の計画) 
  ⑤ 住民参加のための公私協働の計画(活動計画、行動計画など) 
  ⑥ 住民自治としての活動計画(当事者計画など) 
 第1として、住民の個々の「求めと必要に応じた」ケアプランの確立の段階である。それは、縦割り的に制度ごとの提供であったサービスを包括的に提供(ケアマネ-ジメント)できる援助計画としての直接サービスを提供する計画の側面である。第2としては、既存のサービスの量質では対応できないサービスは、将来に必要とされるサービスの質量の社会資源を開発する資源計画の側面である。例えば、新ゴールドプラン、エンゼルプランや障害者プランなどの社会資源の整備目標の側面がある。第3としては、住民が個々の「求めと必要に応じた」サービスを利用しやすい提供体制を構築するために、社会福祉行政の組織や実施体制の変容が求められることである。これまでの社会福祉は福祉事務所中心であったが、団体委任事務の推進のなかで、区市町村の窓口が第一線のサービス提供の責任を持ってきた。そのサービス提供の権限を区市町村が人口規模、立地条件に合せて行政と民間専門機関の間で役割分担を計画的に進める必要が生じている。この組織面での再編制計画の側面である。第4としては、社会福祉行政だけでなく、区市町村の住民の生活に関する行政関係機関全体での計画的統合、計 画的組織化の課題への対応である。具体的には、第3の組織計画である社会福祉行政の内部再編成計画を越え、横断的な地方自治体再編制計画としての組織計画の側面である。このように第1から第4までは、公的・制度的な行政の計画化の段階であった。第5と第6は、社会福祉サービスの運営やコミュニテイワークの分野に対しての住民参加、住民参画、住民自治の促進のための計画である。 特に、第5としては、社会福祉協議会などが、ボランテイア活動の計画的推進や住民参加型相互支援活動の活性化のための活動計画の側面で重要である。この側面の特徴は公的側面と民的側面の相互乗り入れの段階であり、公私協働のレベルの計画と考えられる。さらに、第6の段階は、非制度的、純粋に民間活動の活性化及び自治の段階である。例えば、障害者当事者計画が障害者自身によって策定されるいることや、生活協同組合や農業協同組合などが福祉サービスを企画実施するために福祉計画の立案も求められることが考えられる。しかし、この第6の側面は、今後の社会福祉計画の新しい課題として取り組む課題であり、一部の障害者自治計画がみられるものの具体的な計画とはなっていない。 このよう な検討から、これまで「地域福祉計画」という計画を明確に位置づけ、規定してきたものはないといえる。しかし、行政計画の一部として期待される地域福祉計画では、計画は単純に、老人福祉の領域、障害者の領域の寄せ集めの計画ではない。行政計画として期待される地域福祉計画は、日常の生活における住民の自立生活を支援する、新しいサービスシステムとして、地域を基盤としたサービスを軸にした地域福祉に関する計画であるといえる。そこでは、具体的なサービスの目標(資源計画)を持ち、既存の社会福祉サービスや社会福祉行政の再編制(組織計画)を含んでいる計画ということがいえよう。

Ⅱ 社会福祉計画の住民参加
 
 一般的に計画においては、「予測モデル」と「政策の事前・事後評価」によって構築されるといわれる。しかも、新たなパラダイムの実現のビジョンを基本としたものである必要がある。そのパラダイムの実現のビジョンのために民主的な手段としての計画は、「予測モデル」の実現性の確保とビジョンの柔軟性が求められる。そのために「参加」の視点が確立される必要がある。パレート(V.Pareto)は(注3)、現代社会を特徴ずける一つの概念として開放社会(open society)をあげており、閉鎖性(close system )と開放性(open system)という視点の重要性を指摘している。なお、ケーニッヒ(R Konig )は(注4)、社会変動の一環としての変容について「計画」の重要性を指摘している。この視点から、計画における留意すべき視点に市民の参加による開放性(open system)が重要な意味があることがわかる。この開放性(open system)確保と行政機構が持つ官僚性(bureaucracy)との間には葛藤が当然のこととしてある。計画の過程における参加性の確立は、双方向性の確保による評価と市民による統制のためにも市民参加の位置を検討する必要がある。 これまで、行政計画にあっては、行政機構が持つ官僚性による中央集権的な政策過程がみられた。しかし、最近の動向は、地方分権へ方向が示され、部分自治から完全自治、名目参画から実質参画へと計画策定過程も変化しつつある。この住民対行政の関係は、次の第1レベルから第2レベルへと変ってきている。 
 第一レベル  対象住民が中心となって、公共機関に地域福祉サービスの立法的、行政的整備、拡充、創設を要求する運動型参加 
 第二レベル  地域福祉サービスの計画立案、運営のために公私機関、施設、団体および住民や対象者の協力関係をつくりだす公私協働型参加 
 しかし、「参加 (PARTICIPATION)」は、名目的な参加から、主体的参加、企画、自主運営、当事者管理(セルフ ヘルプ)、市民管理という段階が設定できよう。このことを検討するうえで次のことが参考となる。

 【住民参加の8段階】 S.R.Arnsteinがある。 
 ① 参加の形をとった操作、 ② 責任回避のための代用処置、③ 情報提供、  ④ 形式的な相談による参加、⑤ 宥和、一定の影響力、⑥ パートナーシップ、  ⑦ 権限委譲、 ⑧ 自主管理、  上記のアーンスタインの用語を引用すれば、「参加の形をとった操作」「責任回避のための代用処置」「情報提供」「形式的な相談による参加」の段階は、部分自治であり、名目的な参加のレベルとされる。「宥和、一定の影響力」「パートナーシップ」の段階でも、部分自治であり、名目的な参画のレベルであろう。名目参画から実質参画になるレベルは、「権限委譲」「自主管理」の段階である。この「権限委譲」「自主管理」を原則とした住民自治の計画を念頭に置くことなく、名目的な住民参加をうたう当事者計画や活動計画では、社会福祉における民主主義の計画とはいえまい。 なお、住民参加(市民)について、西尾勝は「運動」、「交渉」、「参画」、「自治」のレベルに整理する。この「自治」の到達点は、形式的な行政事務を団体委任事務化したことだけで、自治が確保されたものとは認知しがたい。この「自治」の到達点には「権限委譲」「自主管理」を原則としたものであるべきである。 このように、行政計画にあって、第1のレベルでの「参加の形をとった操作」から第1のレベルの「パートナーシップ」の段階であっても名目的参加ではな く市民参画が有効性を確保するためには、次の4点に留意すべきであろう。
  《有効生の担保》
  ① 住民が決定手続きの日程を事前に知らされている
  ② 住民が検討や判断のための資料や材料をあらかじめ入手している
  ③ 質疑応答をある程度繰り返す機会が保障されている
  ④ それらが住民の身近な場にある必要がある。

 

Ⅳ 社会福祉の領域での行政計画と住民自治計画の相関関係

 (1) 地域福祉計画の構造 

表1 地域福祉計画の構造
総合的な行政計画としての地域福祉計画  資源計画・組織計画 行政責任 Accountability
(説明実施責任)
公私協働の促進のための
地域福祉連携促進計画 連携促進計画
協働促進計画
参画促進計画 Liaison (連携) 計画
Collaboration(協働)
Interweaving(参画・連係)
自治を志向した地域福祉計画 住民活動計画
当事者活動計画 主体形成
・自治計画 Inclusion(包摂)
Empowerment(主体形成)

 これまでの検討から、上記の表-1のように、行政責任を明確とする行政計画と止揚関係にある住民自治計画が不可欠であることを指摘したい。社会福祉問題という住民の生活の根底にかかる社会福祉計画は、制度的な保健福祉サービスを整備することだけでは、住民が安心して生活を継続することは不可能である。非制度的な側面として、住民の相互支援活動を醸成し、日常的な生活の場面において支えあう活動が必要である。しかも、制度的な保健福祉サービスは、利用しにくく、生活のうるおいをもたらすものとはなりにくい面がある。したがって、地域社会に住む住民の責任、たとえ障害を持っていたとしても地域に住む責任を果たすことが必要であり、日常的な生活の場面での住民自治を確立するための住民の自治のための活動計画が求められているといえよう。しかし、第一義的な責任としては、行政責任(accountability)を明確にしなければならないことが前提である。 この両者の関係は止揚関係であって、両側面が対置することから、民主主義の進展、地方分権化の進展、規制緩和の進展などによって、市民と地方自治体との間の契約行為が自治の面で確保されて始めて、公私協働の計画 が策定されることとなる。この市民と地方自治体との間の契約が国民負担やサービスの公準のレベルで成立することが前提といえよう。 したがって、民主主義・地方分権化・規制緩和の進展が未成熟な段階にあっては、地域福祉計画は上記の表のように、「総合的な行政計画としての地域福祉計画」と「自治を志向した地域福祉計画」に分離して位置づける必要がある。また、この両者を連携させる計画として、「公私協働の促進の地域福祉計画」が位置づけられる。この「公私協働の促進の地域福祉計画」とは、住民の相互支援の活動への支援や、当事者の相互支援の活動への支援や事業の計画実施などを行政に変って支援し、連携 (Liaison)(注5)、 協働(Collaboration)(注6)、参画・均衡 (Interweaving)(注7)を促進する地域福祉計画の一部を成すことが考えられる。この「公私協働の促進の地域福祉計画」が、民主主義・地方分権化・規制緩和の進展を促すことも当然なことである。このことは、「自治を志向した地域福祉計画」に求められる地域社会の主体形成を促進することの重要性と同意である。この視点ではエンパワーメント( empowerment)の理論(注8)が参考になる。この意味からも「住民活動計画」や当事者団体の計画としての「当事者活動計画」が多く策定されることを願いたい。また、「公私協働の促進の地域福祉計画」を策定し、担うべき機関がどこであるべきかは今後研究を進めたい。しかし、地域性が高く、各地方自治体で住民の間において契約行為によって決めていくこととなる。 このような検討から、基本的に、平成11年度当初に予定される社会福祉事業法の改正において、「総合的な行政計画としての地域福祉計画」としての特性を明文化することによって、行政責任を明らかにし、更なる地域福祉の推進を望みたい。しかし、「公私協働の促進の地域福祉計画」の領域まで行政計画に組み入れることは、民主主義・地方分権化・規制緩和の進展が未成熟な状態である現状では、課題があることがいえよう。

結び

 英国で、社会保障に関する新しいグリーンペーパーが論議されている。1998年3月26日に‘New ambitions for our country’《A New Contract for Welfare》と題されインターネット上に流され市民からのアセスメントが図られている。ここでも、国家と市民の「再契約」がいわれ、新しい社会保障の12項目にわたる素案が提起されている。この特徴は、社会保障のビジョン構築をグリーンペーパーとして公開し、市民の意見と参画を図っている。その上で政府白書が提案され、法律化する手続きが英国の特色といえる。この透明性と民主的手続きはたいへん参考となる。 それに対して我が国では、星野信也も指摘している(注9)ことと同意であるが、我が国の地方自治は国からの制限列挙ではなく、包括的授権である。このことは機関委任事務から団体委任事務に変ることで社会福祉のあり方が根底から改革されたとは言い難い側面がある。なぜならば、地方自治体には「許容権」があり、これまでもやる気持があれば地域福祉計画として総合計画化できていた(実際、やる気がある自治体では地域福祉計画を策定してきた)。しかし、権限の中央統制と予算的な縛り(地方交付税や紐つき補助金)があったことに起因する地方自治の未成熟であったことが根底にある。そして、今回の法律改正に よって、地域福祉計画を策定することの義務化は一定の意味を持つ。地方分権化・規制緩和によって地方自治のあり方が大きく変ろうとしていることも理解できる。しかし、社会福祉関係法が対象別法として存在する以上、社会福祉事業法に「地域福祉計画」を盛り込み得ても、星野が指摘するとおり、「単なる行政の予定化にとどまり、必ずしも住民ニーズへの対応となりえない」という危惧がある。したがって、実行性を確保した「地域福祉計画」には対人福祉サービスの包括法としての「社会福祉サービス法」が不可欠であるといえる。したがって、社会福祉計画は、行政責任を明確化した行政計画と止揚関係にある「当事者計画」が不可欠であって、この対置による民主主義的な地域福祉計画の進捗に期待をしたい。しかも、民主主義、地方分権化と規制緩和の未成熟な段階にあっては、社会福祉サービスの利用者が少数者・弱者という側面が残存していることは否定できない。このことからもエンパワーメントの重要性が認識できよう。 なお、このような地域福祉計画を検討するうえで残された課題としてコミュニテイ理論を検証する必要がある。例えば、英国のミッシェル・ベーリー(Bayley M)(注10)が提起したインターウェービング理論(interweaving)や‘Network of services within the community’の視点としてのコミュニテイ醸成の段階理論が参考となる。特に、‘Care in the community’のレベルから‘ Care by the community’のレベルへとコミュニテイの福祉力が形成される段階として‘by the community’の意味が地域福祉計画における「自治を志向した地域福祉計画」を考察するうえで重要な視点である。このことは別稿で検討したい。 このような考察から、地方自治に対する新しい在り方の模索は、機関委任事務から団体委任事務化は、地方分権の第一歩に過ぎない。形式的な団体委任事務化は、星野は『立法によるコントロールへの固執は、逆に立法統制の空同化を招く危険を行政学者は指摘する』という(注11)。地域福祉における自治は、アーンスタインがいう「権限委譲」、「自主管理」のレベルの確立が不可欠であり、「権限委譲」、「自主管理」を保障できないという制限を持つ行政計画では、地域福祉計画という名称を保ち得ても、予算確保のための立法構想にとどまるという危惧があることがいえよう。 最後に、保健福祉サービスの領域でのシステムは、規制緩和(Delegation)、地方分権化(Decentralization)という下部構造の強化を必要としている。それは、地方分権化を越えた「第三の分権化」(注12)が求められることである。このことは、地方自治の分権を越え、更なる当事者や住民への権限委譲の推進の必要性でもある。しかし、効率化と安上がりのサービ ス提供を基本とする過度の規制緩和には問題があろう。この社会福祉サービスの市場化の是非は別稿で取り組みたい。