社会保障のリアリティの②

社会保障のリアリティ①で記した① 人口変動、② 気候変動、③ 地殻変動に加えて、④ 経済変動という要素を提起して社会保障のリアリティ②として説明をしてみたい。

経済変動という枠組みには、既存の経済政策(ケインズ理論など)や社会政策の経験では説明できないことが多く派生していることが含まれる。例えば米経済の幾つかの経済危機などにみられた情報化社会における新しい経済危機がある。事例としてサブプライムローンなど既存の経済常識を越えた事象があったことである。あわせて、先進国のデフレ危機の問題がある。そして、経済のグローバリゼーションによる経済的基盤の変動がある。

最近の著作で注目している本がある。それは、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の新著『21世紀の資本論』(未邦訳)は、世界的な話題となっている。この著作では所得と富の分配について膨大な分析を行った研究で、 もともとフランス語で出版されたが、今年3月に英訳が出版されるや欧米でベストセラーとなっている。この著作の要点『格差社会』という概念の提起と富裕税という公平性の確保策の提起にある。特に、この著作の問題意識は、世界規模での格差による不安定要素への懸念として説明されていることである。古典的には、資本主義の生産手段の独占による資本と労働の関係と搾取が問題であった。もちろん現在もその問題はある。しかし、格差社会は、世界の富の多くを人口の1パーセントに満たない者が独占(かならずしも生産手段の独占のもとではない)されていることにある。それが時間的にも固定化して、格差の連鎖がとどめなく拡販していることにある。それも高度な民主主義と自由主義経済体制のもとで合法的に蓄積された富の偏りである。世界規模での富の偏在化と独占は、ナショナリズムを顕在化し、テロリズムを産むという社会問題の原因となっている。

格差の拡大再生産という問題は、我が国でも社会保障制度の根本を脅かしている。社会保障は資本による剰余価値の再配分の国家的機能として説明されてきた。租税による再配分としての社会政策であった。この社会保障の内容は、医療・年金・介護・子育てなど福祉政策によって担われてきた。これまで、日本社会の経済力(貿易収支・経常収支の黒字などによる)によって生活保障として政策化されてきた。しかし、この20年ほどは国債発行に依存することによって累積した国家的負債は1000兆円を超える自体にまでなっている。、

このような視座に、経済変動による課題の幾つかがあると説明できよう。国民に、新たなる負担を強いることとなる社会保障制度の維持と継続のためには多くの問題がある。それは増税政策かハイパーインフレ現象に陥るしかないという意見も多い。有効需要の創造による新しい経済成長のビジョンが不可欠であることは言うまでもない。社会保障全体の枠組みの再構築しかないことも理解できよう。そのためにも、世界的な経済変動に耐えて、成熟社会を構築していくことしかないように思う。それは新しい福祉社会という成熟した世界であり、その福祉社会に至る道は遠く、具体的なビジョンすら見いだされていない。

このように、世界規模による経済変動という事象は、既存の価値規範や行動原理では対応ができ得ない可能性すらある。経済変動の負の部分は、おそらく格差社会とその固定化という事象として現れてくる。剰余価値の独占事象のあたらしeステージとして説明できるかもしれない。その搾取行為が世界規模で派生してくることから、一国の社会保障の改革だけでも対応が困難となることも推測できる。

これまで説明してきたように、我が国の社会保障崩壊の危機は、このようなリアリティ概念からアプーチして説明いくこととなる。それが① 人口変動、② 気候変動、③ 地殻変動、④ 経済変動という四つの要素として操作概念として位置づけておきたい。

このように経済変動を説明して、次に、社会保障のリアリティの③へとすすみたい。