社会保障のリアリティの③

我が国の社会保障制度の持続性や可能性について、社会の変動要素ととらえて考察してきた。基本的に社会保障のリアリティ(現状や課題)を検討してくると、社会保障制度の危機感は、少子高齢化社会問題と国債残高1000兆円という財政問題にあることはいうまでもない。しかし、このような単純な説明では社会保障制度は再構築できないと考えてきた(拙著「コミュニティケアと社会福祉の地平」参照)。そこで、① 人口変動、② 気候変動、③ 地殻変動、④ 経済変動という要素を組み入れて検討してみた。

今回は、社会保障の歴史的な要素を検討してみたい。我が国の社会保障制度は基本的に憲法第25条を規範としている。我が国には、他の国と異なり社会保障法という法律がないことに特徴がある。さらに、昭和26年の社会事業法など社会福祉関係八法の時代が長くつづいてきた。この社会福祉の領域は、生活保護法や児童福祉法や身体障害者福祉法など対象者を種別に支援するという縦割りの福祉法として構築され、昭和30年代には知的障害社福祉法・老人福祉法・母子福祉法として制定されてきた。しかも、医療政策や年金政策や住宅政策など個々に法定化されていて、社会福祉関係各法との連携の課題がみられた。このようなことから、我が国の社会保障は、医療・年金・社会福祉として説明されるが個別縦割り法であっために連携がなく、縦割りの省庁の部局や地方自治体の政策として展開し課題があった。また、最近になっても平成12年の社会福祉法も理念的で課題がみられ、同年の介護保険制度では、初めて、医療・保健関係法と老人福祉法による包括的な高齢者福祉制度となっている。

欧州を中心とした先進国は、我が国のような個別福祉法はみられない。多くの国では、『社会サービス法』という横断的な包括法によっていて、社会保障法とあわせて包括的な政策となっていることが多い。このように老人福祉・障害者福祉など縦割りの対策ではないことに特徴がある。英国は、英国の社会保障は、医療・年金・社会福祉・住宅・教育など広範な枠組みを包含したものとなっていて、1990年から『NHS&コミュニティケア法』という社会福祉関係から医療関係まで包括法に網羅した包括法となっている。児童福祉法だけは別に法律化している。

我が国の社会保障制度は、前記したように個別福祉法縦割りの護送船団方式という仕組みであることが理解できよう。このことによって、縦割りであるために非能率的・非効率的な運用となりやすいとう課題がある。したがって、我が国の社会保障制度は、改革する必要があり、欧州のような社会サービス法という包括法が不可欠である。老人福祉法や障害者関係法など個別法は縦割りの縄張り対策となる課題があるからである。しかも、我が国の社会福祉の実施体制は、社会福祉サービスを狭くとらえていて、社会福祉法人なる法人に独占的に依存してきた。公設施設以外は、社会福祉法人でしか社会福祉サービスが提供できないように護送船団方式であったわけである。この社会福祉法人は、憲法第89条の制約から、戦後の混乱期に措置制度が導入されて、その受け皿となってきた。もちろん、欧米では社会福祉法人はない。我が国固有な戦後処理の仕組みと考えてよさそうである。しかも、この社会福祉法人は、同族経営・家族経営など一施設一法人で運営面や会計面で課題が指摘されてきて問題が多い。例外的に、介護保険法が高齢者の領域の包括法的な面があり、民間の株式会社・NPO法人がサービス提供をしている。

このように検討してくると、我が国の社会保障制度の維持・継続のためには、① 人口変動、② 気候変動、③ 地殻変動、④ 経済変動という要素に加えて、我が国の固有な社会保障の制度的な矛盾があることがいえる。特に、社会福祉の領域では、対象別な管理法の色彩が強く、概ね措置制度はなくなり改革されたものの各種別法によって、福祉対象ごとに管理しているといわざるを得ない前近代的な仕組みがみられる。

我が国の社会保障制度の維持・継続のためには、社会サービス法という包括法の制定にむけて改革する必要がある。しかも、社会福祉サービス提供の実施体制としての社会福祉法人を大きく改革する必要があると考えている。